糖鎖というのは糖が複数繋がって鎖のようになったもので、糖単独で存在するものとタンパク質や脂質など他の分子に結合しているものとがあります。
特に後者は生命活動、中でも免疫とか感染に重要な意味を持つと言われています。
一つの例としてインフルエンザがあります。
インフルエンザウイルスは、ヒトの細胞の表面にあるN-アセチルノイラミン酸、別名シアル酸という糖を認識し、細胞内に侵入して感染します。
感染した細胞内でウイルス粒子は増殖し、いずれ細胞外に出て他の細胞に感染を広げようとするのですが、ここでも糖の関与があります。
というのも、当然ながらその細胞には既に表面にN-アセチルノイラミン酸があるわけで、細胞の外にウイルス粒子が出てもまずは再びそれを認識してしまうはずです。
これではウイルスは他の細胞に感染を広げられません。
そのため、インフルエンザウイルスはノイラミニダーゼと呼ばれる酵素を作り出し、N-アセチルノイラミン酸をハサミで切るかのように切断してしまうのです。
何とも巧妙なやり方で感染を広げる仕組みを持っているものですが、人間の知恵はさらにその上を行きます。
リレンザとかタミフルと呼ばれるインフルエンザ薬の名前を聞いたことがある人もいるでしょうが、これらの薬はノイラミニダーゼの働きを妨害するのです。
これによって感染の広がりを防止できますし、本来N-アセチルノイラミン酸は切断されては困るものですから、切られるのを妨害したところで副作用はあまり起こらないと期待できます。